ドミナントモーションを転調に使う

2021-03-15

前回、前々回と転調について取り上げてきました。

同主調間での転調となるモーダルインターチェンジ、平行調で使いやすいピボットコード、これらのテクニックを使うだけでも幅広い曲作りができるようになりますが、もっと自由な調に転調したい時に便利な方法はないのかな?ってなりますよね。

今回は、そんな時にとても便利な転調方法をお話ししたいと思います。

【今回のポイント】
●ドミナント進行の仕組み
●ダブルドミナント/ドッペルドミナントとは
●セカンダリードミナントとは
●ドミナントモーションでの転調

《目次》

ドミナントコードの作りと強い解決感の仕組み

世の中には色々な種類のコード進行がありますが、その中でも極めて進行感や解決感が強いのはV – Iのドミナント進行(ドミナントモーション)です。

Vのコードを四和音のドミナントセブンスコードにすると、さらにIのコードへの解決感が強まります。

Cメジャー(長調)を例に挙げて小難しいお話をすると、V7はG7で構成音は(GBDF)、B-Fの間が全音3つ分の音程となっています。

この音程はトライトーンと呼ばれていまして、とても不安定な音程とされています。

またスケールの中の7番目の音は導音と呼ばれていまして、1番目の音(根音/ルート)に解決するのがセオリーとなっています。

G7の中のBはCメジャー(長調)の導音で、それはIのコードとなるCメジャー(構成音:CEG)のC(スケールのルート/1の音)に半音進行で解決します。

またG7でトライトーンを構成していたもう一方の音のFは、CメジャーのEに半音で解決します。

トライトーンがそれぞれ半音進行で解決する事に加えて、コードのベース音がGからCへと4度進行で解決します。

4度進行ならびに5度進行はとても強い進行で、トライトーンの解決とベース音の4度進行が共存しているV7 – I は「強&強」状態で、ドミナントモーションは極めて強いコード進行と言えます。

今回の転調は、このドミナントモーションを応用した方法になります。

ドミナントに、さらにドミナントの合わせ技

ドミナントセブンスコードの解決感と聞いて、頭ではなんとなく理解できても感覚として養われていないと「そういうものなのかなぁ~」というぐらいでしかないと思います。

実際にギターを手にして自分で音を出してみることで、音を聴く側だけでなく音を出す側として、その違いを体感していただきたいと思います。

Em – Am – Dm7 – G7 – C

このコード進行を実際にギターで弾いてみてください。

綺麗に繋がるコード進行ですね。

次に、Dm7をD7に入れ替えて弾いてみてください。

Em – Am – D7 – G7 – C

どうでしたか?

ちょっと「ん?」という違和感があったかもしれませんが、音楽的に破綻することもなく、これはこれで使えるコード進行ですよね。

何回が繰り返し弾いてみて、このコード進行が耳に馴染んでくると「 Dm7 – G7 – C 」のコード進行は滑らかで平坦な感じに聞こえて物足りなくなってくるかもしれません。

確かに、聴き比べてみると「 Dm7 – G7 – C 」よりも「 D7 – G7 – C 」の方が力強くて、ドラマチックな感じがしませんか?

これはIのコード(C)に解決するV7(G7)の直前のIIm7(Dm7)の解釈を変更して、V7を別のキーのIのコードと仮想して(G7からGへ仮想)、そのコードに解決するドミナントコード(D7)に置き換えた事によって生まれる効果です。

 

Cメジャーのキーの中にII7というコードは存在しません。

このII7はGのキーのV7コードになります。

ちなみにGメジャースケールはこのようなダイアトニックコードになります。
( GMaj7 – Am7 – Bm7 – CMaj7 – D7 – Em7 – bFm7b5 )

ですので、D7 – G7 – C というコード進行は、Cメジャー(長調)の中でD7を使う事で一時的にGメジャーに部分転調している事になります。

そこでD7がGメジャーに解決するという強い進行感を演出しておいて、さらに無意識にその解決を待つ聞き手の気持ちを引き伸ばしてG7に繋ぎ、G7をドミナントモーションで解決させる事でIIm7の時よりもコード進行にパワーとドラマを与えています。

言ってみれば、ドミナント進行の二重がけですね。

このようにVのコードに解決するII7は、キーにおけるドミナント(V)に解決するドミナント(Vのキーに対するドミナント)という事で、ダブルドミナントあるいはドッペルドミナントと呼ばれています。

II7というコードはちょっとしたアクセントに使えますので、アレンジや作曲に使ってみると面白いですよ。

ダブルドミナントを応用して使えるコードを増やす

ダブルドミナントはV(ドミナント)に解決するV(ドミナント)という事で、IIのコードに使いどころが限られます

転調していると言っても、IIのコードの部分が一時的に転調しているだけで、次のV7の時には元のキーに戻っていました。

実際にギターで音を出して確認していただいたので分かりやすいと思いますが、II7って違和感がそんなに強くないコードでしたよね。

キーの中には無いコードなのにそれほど違和感が無かったのは、ドミナントコードがダイアトニックコードに解決するという強い進行感で結びついているからです。

「キーのドミナントのコード(V)にドミナントモーションで解決するのがダブルドミナントか、なるほどなるほど。」

ここで、おや?と思いませんか?

Vのコード以外のダイアトニックコードにドミナントモーションをしたらどうなるんでしょう?

ドミナントモーションはメジャーのキーでもマイナーのキーでも起こるので(マイナーの方は解決感が少し弱い)、解決先はマイナーコードでも使えます。

IのコードへドミナントモーションをするコードはV7ですが、これはダイアトニックコードなので除外。

IImへのドミナントモーションをするコードはVI7。この場合はIImのコードをトニックとしたマイナーのキーのドミナントモーションになりますね。

IIImにはVII7、IVにはI7、VへはII7でダブルドミナント、VImへはIII7、VIIdimは解決先として適切では無いのでこれも除外。

候補として、I7、III7、VI7、VII7が挙がってきました。

それでは、実際にギターを手にして以下のコード進行を弾いてみてください。

【I7の例】
F – G – C – C – F – G – C – C7 – F – G – C

【III7の例】
C – Em – Am – G – C – E7 – Am – G – C

【VI7の例】
Em – Am – Dm – G – Em – A7 – Dm – G – C

【VII7の例】
C – Bm7b5 – Em – G – C – B7 – Em – G – C

どうでしたか?

使いやすい、使いにくい、違和感がなくスムーズに繋がるもの、違和感が強いものなどそれぞれに感じ方の違いはあるかもしれませんが、これはこれで使えるコード進行だと思いませんか?

I7はI – IVというコード進行にワンクッション入れたい時に使える便利なコード進行ですし、IIIm – VI7 – IIm – Vなんてジャズでは星の数ほど出てきます。

III7やVII7はちょっと使いどころが難しいですが、ドラマチックな演出に使えそうです。

どうやら、ダイアトニックコードに解決するドミナントコードは、そのキーに使えるコードの幅を広げてくれそうです。

このように、ダイアトニックコードにドミナントモーションで解決するドミナントコードセカンダリードミナント(コード)と呼びます。

ドミナント進行の第二候補、予備のドミナントというところでしょうか。

前述のダブルドミナントコードは、Vのダイアトニックコードのセカンダリードミナントとも言えます。

セカンダリードミナントを使うことで、曲の調整を保ちながらコード進行にバリエーションを持たせることができるようになります。

曲のコード進行をアレンジする時などに、セカンダリードミナントはどんなコードが使えるかを調べてみると色々な可能性が見えてくるので楽しいですよ。

ドミナントモーションを転調に使う

ダブルドミナント、セカンダリードミナントに慣れてくると、曲のキーの中でダイアトニックコード意外のドミナントコードが出てきても、違和感というよりはスパイスとして捉えられるようになってきます。

このちょっとした変化、調整からほんの少しだけ外の領域に足を踏み入れた感じが、なんとなく体感として養われてきているのではないでしょうか?

ちょっと外れて解決、ちょっと外の世界を見て戻ってくる…この躍動感がダイアトニックだけで整った落ち着いた曲想に新しい息吹を吹き込んでくれます。

でも、これってセカンダリードミナントコードがきちんと解決しているからこそ、着地点があるからこその「あぁ、戻ってきた。」という安心感なんですよね。

セカンダリードミナントの次のコードが全然関係ないコードだったら、こうはいきません。

セカンダリードミナントは、あくまでも一瞬の部分転調なので、元のキーに戻ることで「そういうこともあったよね」的なエピソードになり、曲という物語に彩りを添えます。

しかし、物語には時として異世界に足を踏み入れてしまうものもあります。

もし、ある事柄がきっかけで別の世界に紛れ込んでしまったら?

もし、セカンダリードミナントが別世界へ繋がっていたら?

それが、ドミナントモーションを利用した転調のコンセプトです。

セカンダリードミナントは一時的に元のキーから離れて部分的に転調をしていますが、次のコードはダイアトニックコード 、つまりキーの調整内のコードに戻ることでキーを維持します。

ドミナントコードを解決させることができないと調整が破綻して、キーの世界が維持できません。

解決するコードを把握しているから、そのコードを狙ってドミナントモーションという技を繰り出しているというわけです。

では、別のコードを狙ってみたらどうなるのでしょう?

例えば、ターゲットとするコードがダイアトニックコードではなくて、セカンダリードミナントコードのIのコードだったとしたら?

実際に音を出して試してみましょう。

8小節目のコードのA7がセカンダリードミナントなら次のコードはDm7になるのですが、そのままA7をVのコードとみなして、そのキーのIのコードであるDMaj7に解決させています。

セカンダリードミナントと見せかけて、そのまま転調に使っているという訳ですね。

A7をきっかけにしてキーがCメジャー(長調)からDメジャー(長調)に転調しました。

Cメジャーの世界観の中でA7を出して「お?異世界をチラ見させたな?」と思わせておいて、元に戻るかと思いきやの「そのまま異世界に行くんかい~!」という、ある意味セカンダリードミナントで裏をかいた裏をいくという。

結果としては、そのまんまなひねりのない展開になるのですが、セカンダリードミナントの違和感がそれほど強くないので段階を追って転調をしている感じになります。

これは、セカンダリードミナントでちょっと浮足だった感じになったところを分岐点として、ダイアトニックコードに解決させるか、それとも次のキーのコードに解決させるかという選択肢が生まれると考えることができます。

また、ドミナントコードは必ずしもIのコード(トニック)に解決するとは限らず、トニックのグループであるIIImやVImに偽終止することもできます。

偽終止って何?という方はこちらをご覧ください
>>コード進行編開始! 機能を理解してコードを入れ替える

この例は、E7からAMaj7へドミナントモーションをさせずに、AメジャーのキーのIIImにあたるC#m7に偽終始させています。

曲想によって使える偽終始、使えない偽終始は出てくると思いますが、ドミナントコードを挟むことで次のコードの選択肢がグッと増えることはお分かりいただけると思います。

ドミナントコードは、どう解決させるかによって色々な異世界への扉を開くことができる可能性を秘めたコードと言えそうです。

しかも、そこにダブルドミナントを組み込んでみたらどうなるでしょう?

DメジャーをターゲットにしたA7にダブルドミナントのE7を重ねてからのA7、しかもそのままDのコードに行かずに新しいキー(Dメジャー)のIIImにあたる#Fm7に偽終始。そこからIIIm-VIm-IIm-Vの定番に行くかと思ったら、II7を挟んでダブルドミナント…と見せかけてからのIIm-V7への変化。

なんか…めちゃくちゃ強引な連続技のオンパレードになってますねぇ。(^^;

ダイアトニックコードの知識だけですと、上のコード進行は摩訶不思議で難解なコード進行に見えますが、セカンダリードミナントと偽終始を組み合わせると、このように複雑なコード進行も作れるようになります。

もちろん、聴いて心地良くなかったらなんの意味も無いんですけど、知識と知識を組み合わせることで合成魔法のようなこともできるようになるという一例になったのでは無いでしょうか。

ドミナントコードというのは、使い方次第で色々なことができるようになるものですね。

しかし! まだまだこれで終わりというわけではありません!

さらにドミナントコードを発展させてもっと転調の可能性を広げることができるのです。

ドミナントコードは本当に色々な顔を持つコードしてして、その可能性をこれから数回に分けてお話ししていきたいと思います。

今回は内容を詰め込みすぎた感じがしますけど、その辺りも噛み砕きながら分かりやすく解説していけたらと思います。

ドミナントコードはまだまだ隠された使い方や発展の可能性を持っていまして、見た目よりもずっと奥の深いコードです。

その奥深さを知っていくごとに、あなたの作曲やアレンジ能力は知らず知らずのうちに高まっていくと思います。

興味がありましたら、ぜひ次回のトピックも楽しみにしていてくださいね。

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